【2024年】入管法改正の内容|難民申請や特定技能の変更点をわかりやすく解説

日本では労働力不足の深刻化を背景に、外国人材の受け入れを強化するための法整備が進められてきました。その中核を担うのが「出入国管理及び難民認定法(入管法)」であり、近年は制度の見直しや新たな在留資格の創設など、度重なる改正が行われています。特に2024年の改正では、技能実習制度の廃止と新制度「育成就労」の創設、特定技能制度の見直し、不法就労対策の強化など、企業や外国人本人にとって大きな影響を及ぼす変更が盛り込まれました。
本記事では、過去の改正内容をふまえたうえで、2024年の入管法改正のポイントや、企業が注意すべき実務上の対応までをわかりやすく解説します。外国人材の採用や雇用に関わる方は、ぜひ参考にしてください。
目次
出入国管理及び難民認定法(入管法)とは何か
出入国管理及び難民認定法(入管法)は、日本国内への入国・在留・出国に関する手続きや難民認定に関する事項を規定した法律です。
この法律は外国人だけでなく日本人も含めたすべての人の出入国を管理する基本的な法的枠組みとなっています。企業が外国人を雇用する際には、この法律に基づく在留資格制度を理解することが不可欠です。
近年、少子高齢化に伴う労働力不足という社会課題に対応するため、外国人材の受け入れ拡大や既存制度の見直しを目的とした改正が相次いでいます。
参考:
e-GOV法令検索|出入国管理及び難民認定法(昭和二十六年政令第三百十九号)
日本の労働力不足と外国人受け入れ政策の変遷
日本の生産年齢人口は1994年をピークに減少傾向に転じ、労働力人口も1998年から減少が始まりました。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2070年には日本の総人口に占める外国人の割合が10.8%に達する見込みです。
こうした状況に対応するため、1993年に技能実習制度が導入されました。本来は開発途上国への「技術移転」が目的でしたが、実質的には日本の労働力不足を補う役割を担ってきました。2019年には人手不足対策を明確に打ち出した特定技能制度が創設され、外国人材の活用範囲が広がっています。
参考:
公益社団法人日本経済研究センター|新しい将来人口の推計値:以前のものとどこが違うのか ③外国人人口
近年の入管法改正の目的と論点
【主な改正目的】
- 人手不足への対応:日本の人口減少と労働力不足を補うための外国人材受け入れ拡大
- 技能実習制度の問題点改善:失踪や労働環境問題など技能実習制度の課題解決
- 難民認定手続きの見直し:難民認定申請の濫用防止と適切な保護の両立
- 入管施設での長期収容問題への対応:退去が確定した外国人の収容長期化解消
- 外国人材受け入れ体制の強化:特定技能制度の分野拡大と適正運用の推進
- 永住許可制度の適正化:公租公課の納付など永住者の義務履行の確保
【2019年以降の主な論点】
- 在留資格「特定技能」の創設と拡充:単純労働を含む幅広い業務への外国人材活用
- 技能実習制度から育成就労制度への移行:制度の問題点解消と人材の有効活用
- 難民認定システムの改善:3回目以降の申請者への対応と補完的保護制度の創設
- 移民政策との関係性:特定技能2号の拡大など長期滞在可能な制度の議論
- 不法就労・不法滞在者対策:自発的帰国の促進措置と厳罰化のバランス
- 人権保護との両立:入管収容施設での処遇改善と強制送還のあり方
日本と諸外国を比較すると、韓国では技能実習生から就労ビザへの移行が積極的に進められ、ドイツでは介護分野において現地語の習得は「来てから覚えればよい」という柔軟な姿勢をとっています。
日本の外国人受け入れ政策は依然として制限的な側面がありますが、着実に変化しつつあります。
2019年から2023年までの入管法改正のポイント
日本の人口減少と少子高齢化による労働力不足、外国人の人権保護、適切な出入国管理の実現など多様な社会課題へ対応するため、入管法は2019年以降、重要な転換点を迎えています。
企業の人材戦略にも直結するこれらの改正を年代順に整理し、その背景と影響を解説します。
年 | 改正の主なポイント | 特徴・影響 |
2019年4月 | ・新たな在留資格「特定技能」の創設
・特定技能1号と2号の2種類を設定 ・人手不足が深刻な14業種を対象に外国人材受入れ拡大 |
・日本の人口減少と深刻な人手不足解消が目的
・単純労働を含む幅広い業務が可能に ・技能実習から特定技能への移行が可能になった ・受入れ企業に外国人材支援計画の実施義務 |
2021年 | ・難民3回目以降の申請者の強制送還可能化
・不法滞在者の強制帰国促進 ・強制送還拒否者への刑事罰導入 |
・改正案は取り下げられた
・スリランカ人女性死亡事件を受けて批判が高まった ・人権上の問題点が多いと指摘された ・難民認定率の低さ(2021年は74人)が問題視された |
2023年6月 | ・難民認定手続きの見直し
・補完的保護対象者制度の創設 ・送還停止効の例外規定創設(条件付き3回目以降申請者の強制送還) ・自発的な帰国を促す措置(上陸拒否期間短縮) ・仮放免制度の見直し ・監理措置制度の創設 |
・2023年6月9日に成立、6月16日に公布
・難民申請3回目以降でも「相当の理由」があれば送還停止 ・退去命令制度を拡大(摘発後も上陸拒否1年に短縮) ・3年以上の実刑者やテロリストも難民申請中でも退去可能 |
2019年改正:特定技能在留資格の創設と成果
2019年4月の入管法改正では、日本の深刻な人手不足を背景に、外国人材を積極的に受け入れるための新たな在留資格「特定技能」が創設されました。この制度は従来の高度専門職と単純労働のみの技能実習制度の間を埋める重要な位置づけとなっています。
項目 | 特定技能1号 | 特定技能2号 |
在留期間 | 最長5年 | 更新制で在留期間の上限なし(無制限) |
家族の帯同 | 不可 | 可能 |
必要な技能レベル | 業界知識を有する外国人
一定の専門性・技能がある |
熟練した技能を持った外国人 |
対象分野 | 当初は14業種
(その後16分野に拡大) |
当初は建設と造船・舶用工業の2分野のみ
(2023年改正で介護を除く全分野へ拡大) |
入国経路 | ・技能試験と日本語試験の合格者
・技能実習2号修了者(試験免除) |
特定技能1号からのみ移行可能
(さらに試験に合格する必要あり) |
転職 | 同一業種内での転職可能 | 同一業種内での転職可能 |
特定技能の導入効果は明らかで、2025年2月末時点で294,359人が在留し、業種別では飲食料品製造業が75,404人と最多です。
介護(47,063人)、工業製品製造業(45,753人)、建設(40,530)と続き、国内の主要産業を支える重要な人材となっています。企業にとっては即戦力確保の道が開かれた意義は大きいと言えるでしょう。
2021年改正:入管法改正案の取り下げの経緯
2021年に国会提出された入管法改正案は、難民認定制度と不法滞在者対策に焦点を当てた内容でしたが、人権保護の観点から大きな批判を浴びることになりました。
- 不法滞在者の帰国徹底
- 難民認定申請3回以上の外国人の強制送還
- 強制送還拒否者への刑事罰
この改正案は審議中に名古屋入管施設でスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが死亡するという痛ましい事件が発生したことで国内外から厳しい批判を受けました。
また、日本の難民認定率の極端な低さ(2021年はわずか74人)も国際社会から指摘される中、最終的に法案は取り下げに追い込まれました。この経緯は入管行政における人権配慮の重要性を再認識させる契機となっています。
参考:法務省出入国在留管理庁|令和3年における難民認定者数等について、令和6年における難民認定者数等について
2023年改正:難民認定手続きの見直し
2023年6月の入管法改正は、2021年の反省を踏まえ、人権保護と適切な出入国管理のバランスを取る形で成立しました。
改正の要点は大きく3つの柱に分けられます。
【保護すべき者を確実に保護】
- 「補完的保護対象者」認定制度
- 在留特別許可制度の適正化
- 難民認定制度の運用の見直し
【送還忌避問題の解決】
- 送還停止効の例外規定
- 罰則付きの退去等命令制度
- 自発的な帰国を促すための措置
【収容を巡る諸問題の解決】
- 収容に代わる監理措置
- 仮放免の在り方の見直し
- 適正な処遇の実施
特に注目されるのは送還停止効の例外規定の創設です。従来は難民認定手続き中は一律に送還が停止されていましたが、3回目以降の申請者や3年以上の実刑を受けた者、テロリストなどは難民認定手続き中でも退去可能となりました。ただし、3回目以降の申請者でも「相当の理由がある資料」を提出した場合は送還停止とされています。
2024年入管法改正の主要な変更点
2024年6月14日に成立し、同月21日に公布された入管法改正は、外国人材の受け入れ体制と保護の両立を図る画期的な内容となっています。
この改正では「出入国管理及び難民認定法等の一部を改正する法律(令和6年法律第59号)」と「出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律(令和6年法律第60号)」が制定され、企業の人事担当者にとって重要な以下の4つの変更点が含まれています。
- 新たな在留資格創設
- 特定技能の適正化
- 不法就労助長罪の厳罰化
- 永住許可制度の適正化
参考:法務省出入国在留管理庁|改正法の概要(育成就労制度の創設等)
これらの改正は、企業における外国人採用戦略の見直しや受け入れ体制の整備を必要とするものであり、実務担当者は具体的な変更点を正確に把握する必要があります。
技能実習制度廃止と新たな在留資格「育成就労」の創設
2024年の入管法改正では、国内外から批判を受けてきた技能実習制度を廃止し、新たに「育成就労」在留資格を創設します。技能実習制度は1993年の導入以来、本来目的の「技術移転」から乖離し、転籍制限による人権侵害や失踪問題が社会課題となっていました。
育成就労制度では、日本語能力や技能要件を満たせば条件付きで1年目から転職が可能となり、現行の技能実習で3年間原則転籍不可だった状況が大きく改善されます。この制度は2027年までに段階的に導入される計画で、既存の技能実習生からの移行措置も検討されています。
新制度のメリットとしては職場のミスマッチ解消や労働環境改善、人材の有効活用などが期待されます。一方で地方企業にとっては、海外から招聘コストをかけて迎えた人材が早期に転職するリスクも懸念されるため、魅力的な雇用環境の整備が一層重要になるでしょう。
特定技能制度の適正化と受入れ企業の支援体制
特定技能制度についても運用面で重要な変更があります。在留資格「特定技能1号」で滞在する外国人への支援を外部委託する場合、委託先は登録支援機関に限定されることになりました。これまでは一部委託の場合、登録機関以外への委託も可能でしたが、外国人材保護の観点から基準が厳格化されます。
また、2023年の入管法改正で特定技能の対象業種も拡大されました。新たに自動車運送業(陸送、バス、タクシー)、鉄道分野、林業、木材産業が追加され、さらに特定技能2号については、当初の建設・造船分野に加え、介護を除くすべての分野へと大幅に拡大されています。
この拡大により、企業は5年の上限を超えて外国人材を長期雇用できるようになり、外国人にとっても家族帯同可能で事実上の定住への道が開かれました。人事担当者は各業界の特定技能試験実施予定や資格要件を確認し、中長期的な採用計画を立てることが求められます。
不法就労助長罪の厳罰化と永住許可制度の見直し
外国人の権利保護と適切な在留管理の両立を図るため、不法就労助長罪の罰則も大幅に引き上げられました。
具体的な変更内容は以下のとおりです。
項目 | 改正前 | 改正後 |
拘禁刑 | 3年以下 | 5年以下 |
罰金 | 300万円以下 | 500万円以下 |
併科の可否 | 併科可 | 併科可 |
この厳罰化は、育成就労制度導入による転職自由化に伴い、悪質な転籍ブローカーが介入するリスクへの対策です。企業の人事担当者は、外国人採用の際に適正な手続きを遵守し、不適切な仲介業者との関わりを避ける必要があります。
永住許可制度についても適正化が図られ、取消事由が追加されました。「入管法上の義務違反」「公租公課の支払い不履行」「特定の刑罰法令違反」が該当し、これらに違反した場合、永住資格の取消しリスクが生じます。永住者は他の在留資格と異なり更新審査がないため、納税義務などが適切に履行されない事例が問題となっていました。
企業としては、永住者を含む外国人従業員の税金や社会保険の適正な手続きをサポートする体制整備が重要になるでしょう。
参考:法務省出入国在留管理庁|永住許可に関するガイドライン(令和6年11月18日改訂)
外国人材採用における企業の注意点
入管法改正を理解するだけでなく、外国人雇用の基本的コンプライアンスも把握しましょう。在留資格更新申請は期限の3ヶ月前から可能なため、カレンダー管理で期限切れリスクを防止しましょう。
外国人従業員には日本人と同等以上の報酬が法的義務です。同一労働同一賃金制度や最低賃金法は国籍問わず適用され、違反は罰則対象となります。
外国人採用には支援制度も活用できます。厚労省の助成金は要件を満たせば受給しやすく、経産省の補助金は審査制ですが支給額が大きい場合もあります。
まとめ
2024年の入管法改正では、技能実習制度の廃止と育成就労制度の創設、特定技能制度の適正化と分野拡大、不法就労助長罪の厳罰化、永住許可制度の見直しなど多岐にわたる変更が実施されます。これらの改正は外国人材の保護と活用の両立を目指すものであり、企業は特に転職条件の変化や支援体制の強化に注意が必要です。また、在留資格更新の適切な管理、同一労働同一賃金の遵守、助成金・補助金の活用などコンプライアンス面での取り組みも重要となります。人手不足解消と外国人材保護のバランスを取りながら、改正内容を正しく理解し対応することが企業に求められています。