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特定技能「介護」とは?要件やメリット・技能実習との違いを解説 

深刻な人材不足が続く介護業界において、外国人労働者の受け入れを目的とした在留資格「特定技能(介護)」が注目を集めています。この制度は、即戦力となる外国人を介護現場に受け入れるために創設されたもので、一定の日本語能力と技能評価試験の合格を条件に、身体介護業務に従事することが可能となります。しかし、「特定技能(介護)」は、在留資格「介護」や技能実習制度、EPA介護福祉士候補者とは制度内容や就労条件が異なり、受け入れる側にも制度理解と準備が求められます。

本記事では、「特定技能(介護)」の概要、取得ルート、他制度との違い、さらには受け入れに際してのメリットと注意点までを解説します。外国人介護人材の採用を検討している方は、ぜひ参考にしてください。

特定技能「介護」とは

特定技能「介護」は、介護分野における深刻な人材不足に対応するために2019年4月に新設された在留資格制度です。外国人材が日本の介護現場で働くための資格として、一定の専門性・技能を有し即戦力となる人材を受け入れる仕組みとなっています。

この制度により、介護施設は外国人材を採用して人手不足を解消するとともに、質の高いサービスを維持することが可能になります。特定技能「介護」を取得した外国人は、身体介護などの専門的な業務に従事できます。

深刻化する介護人材不足への対応策として誕生

日本の介護業界は深刻な人材不足に直面しています。厚生労働省の資料によると、介護関係職種の有効求人倍率は一貫して上昇を続け、令和6年3月時点でも3.7倍と依然高く、全職種平均の1.27倍と比較して約3倍の水準となっています。

介護事業所への調査では「大いに不足」「不足」「やや不足」と回答した事業所が66.6%に達し、その多くが人材確保に困難を感じているのが現状です。高齢化の進展により介護サービスの需要は加速度的に増加する一方、離職率の高さや他産業との人材獲得競争の激化により、国内の人材確保だけでは必要な介護人材を十分に確保できない状況が続いています。このような背景から、特定技能「介護」制度が創設されました。

深刻化する介護人材不足への対応策として誕生

出典:厚生労働省|図表1-2-39 有効求人倍率(介護関係職種)の推移(暦年別)

特定技能制度の全体像と介護分野の位置づけ

特定技能制度は、人手不足が深刻な産業分野において、一定の専門性・技能を有する外国人材を受け入れるための制度です。令和5年7月時点で、介護、農業、建設など全14分野で外国人材の受入れが認められています。特定技能には1号と2号の二種類があり、1号は最長5年まで、2号は在留期間の上限なく更新可能という違いがあります。

介護分野については、現行の専門的・技術的分野の在留資格「介護」があることから、特定技能は1号のみとなっています。つまり、特定技能「介護」での在留は最長5年までですが、この期間中に介護福祉士国家資格を取得すれば、在留資格「介護」へ移行して永続的に日本で働くことが可能です。これにより、キャリアパスが明確に示されている点が特徴です。

参考:法務省出入国在留管理庁|特定技能ガイドブック

特定技能1号「介護」の資格取得ルート

特定技能1号「介護」の資格を取得するためには、複数のルートが用意されています。介護技能評価試験と日本語試験による一般的な取得方法のほか、すでに日本で技能実習生として働いている方のための移行ルート、EPA介護福祉士候補者や介護福祉士養成施設修了者向けの特別ルートがあります。

それぞれのルートには独自の要件や条件が設定されており、外国人材の経歴や状況に応じた選択が可能となっています。以下では、各取得ルートの詳細について解説します。

介護技能評価試験と日本語試験による取得

介護技能評価試験と日本語試験に合格することで特定技能「介護」の資格を取得できます。介護技能評価試験は、介護業務の基盤となる能力や考え方に基づき、利用者の心身状況に応じた介護を一定程度実践できるかを測るもので、コンピューターベースのテスト(CBT)方式で実施されます。

日本語能力については、「国際交流基金日本語基礎テスト」または「日本語能力試験N4以上」のいずれかに加えて、「介護日本語評価試験」にも合格する必要があります。介護日本語評価試験は、介護現場で必要な日本語能力を測るテストです。

これらの試験は国内外で実施されており、厚生労働省のサイトにはサンプル問題集と学習用テキストが用意されています。

技能実習2号からの移行

技能実習2号を良好に修了した方は、特定技能「介護」へ移行することができます。「良好に修了」とは、技能実習を2年10ヶ月以上修了し、かつ技能検定3級相当の技能実習評価試験に合格しているか、技能実習生に関する評価調書があることを意味します。

このルートでは、介護技能評価試験と日本語能力試験が免除されますが、介護日本語評価試験は免除されないため注意が必要です。2017年に技能実習制度に介護分野が創設され、5年が経過したことから、このルートでの移行者が増加しています。

また、特例として技能実習から異業種(別分野)への移行も認められていた時期があり、多様なバックグラウンドを持つ人材が介護分野に参入しています。

その他の取得ルート(EPA・介護福祉士養成施設修了者)

EPA介護福祉士候補者や介護福祉士養成施設修了者にも特定技能「介護」の資格取得ルートがあります。EPA介護福祉士候補者として4年間適切に就労・研修に従事した方は、試験が免除されます。「適切に従事」とは、直近の介護福祉士国家試験で合格基準点の5割以上得点があり、すべての試験科目に得点があることを指します。

また、介護福祉士養成施設を修了した方も、十分な介護技能と日本語能力を有するとみなされ、試験が免除されます。これらのルートは試験免除というメリットがある一方、EPA制度の参加や養成施設での2年以上の学習など、条件が厳しい面もあります。

なお、EPA介護福祉士候補者が介護福祉士国家試験に合格した場合は、在留資格「介護」に移行できます。

特定技能1号「介護」で従事できる業務と職場

特定技能1号「介護」の資格を持つ外国人材は、日本の介護現場で具体的にどのような業務に従事し、どのような施設で働くことができるのでしょうか。この制度では、身体介護を中心とした業務に従事することが認められており、さまざまな介護施設での就労が可能です。

ただし、現時点では業務範囲に一部制限があります。ここでは、特定技能「介護」で従事できる業務内容と職場環境、そして今後の制度変更について詳しく解説します。

身体介護と付随する支援業務の範囲

特定技能「介護」の外国人材は、利用者の心身の状況に応じた入浴、食事、排せつの介助などの身体介護を中心に、レクリエーションの実施や機能訓練の補助などの付随する支援業務にも従事できます。

これらの業務は日本人介護職員と同等の範囲であり、1対1のケアや複数の利用者を同時に見守るような業務も含まれます。注目すべき点として、特定技能「介護」の外国人材は1人での夜勤業務も可能で、技能実習生とは異なり、施設に配属された後すぐに人員配置基準に加えることができます。

これにより、即戦力として現場で活躍することが期待されています。ただし、業務範囲は施設内でのサービス提供に限定されており、現時点では訪問系サービスへの従事は認められていません。

特定技能「介護」の対象施設と受入れ条件

特定技能「介護」の外国人材を受け入れられる施設は、介護保険3施設(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院)、認知症グループホーム、特定施設、通所介護、通所リハビリテーションなど、訪問系サービス以外の介護施設が対象となります。

受入れ施設側には、介護分野の特定技能協議会への加入、従事させる業務が身体介護や付随する支援業務であること、訪問介護を提供する業務を含まないことなどの条件があります。

また、受入れ人数には上限が設けられており、事業所単位で日本人等の常勤介護職員数を超えない数までとされています。これにより、過度な外国人材への依存を防ぎながら、適切な介護サービスの質を維持する仕組みとなっています。

対象施設

出典:厚生労働省|介護分野の1号特定技能外国人を受け入れる対象施設について

2025年度から訪問介護への従事が可能に

現在、特定技能「介護」の外国人材は訪問介護サービスに従事することができませんが、この制限が近い将来緩和される見通しです。2024年6月に厚生労働省の検討会において、特定技能外国人なども訪問介護に従事できる方針が決定されました。早ければ2025年度から受入れが可能になる予定です。

これにより、特定技能「介護」の外国人材の活躍の場が大きく広がることが期待されています。なお、在留資格「介護」(介護福祉士国家資格保持者)については、すでに一定条件を満たした事業所の訪問系サービスにも従事可能となっています。

特定技能「介護」の外国人材が介護福祉士資格を取得して在留資格「介護」へ移行すれば、訪問系サービスを含むより広範な業務に従事できるようになります。

参考:厚生労働省|外国人介護人材の訪問系サービスへの従事について

特定技能「介護」と他の在留資格との違い

外国人介護人材を受け入れる制度として、特定技能「介護」、在留資格「介護」、技能実習「介護」、EPA介護福祉士候補者という4つの主要な在留資格があります。

それぞれ制度の目的や対象者、在留期間などが異なるため、介護施設が人材確保戦略を検討する際は、各制度の特徴を理解して最適な選択をすることが重要です。

以下の表で4つの制度を比較し、その後、特定技能「介護」と各制度との主な違いを解説します。

比較項目 特定技能「介護」 在留資格「介護」 技能実習「介護」 特定活動EPA
制度の目的 介護分野における人材不足の解消 専門的・技術的分野への外国人労働者の受け入れ 国際貢献(日本の技術・技能を開発途上地域での経済発展に活用) 経済連携協定(EPA)の一環として経済的な連携強化
対象者 • 介護技能評価試験と日本語試験合格者

• 技能実習2号修了者

• 介護福祉士養成施設修了者

• EPA介護福祉士候補者として4年間従事した者

介護福祉士国家資格保持者 特別な資格・学歴要件はなし(監理団体の選考基準による) インドネシア・フィリピン・ベトナム国籍で、母国で看護系学校を卒業または介護士として認定されている者
在留期間 通算で最長5年(更新:1年、6カ月または4カ月ごと) 制限なし(更新可能) 技能実習1〜3号合わせて最長5年 原則4年、介護福祉士資格取得後は制限なし

参考:三菱UFJリサーチ&コンサルティング|外国人介護職員の雇用に関する介護事業者向けガイドブック

在留資格「介護」との主な違い

特定技能「介護」と在留資格「介護」の最大の違いは、取得条件と在留期間です。特定技能「介護」は介護技能評価試験と日本語試験の合格など複数の取得ルートがあるのに対し、在留資格「介護」は介護福祉士国家資格の取得が必須条件となります。

在留期間については、特定技能「介護」は通算最長5年までですが、在留資格「介護」は更新回数に制限がなく、永続的に日本で働くことが可能です。業務範囲においても、特定技能「介護」は訪問介護への従事が認められていないのに対し、在留資格「介護」は一定条件下で訪問系サービスを含むすべての介護業務に従事できます。

日本語能力要件も異なり、特定技能は基本的にN4程度で取得可能ですが、在留資格「介護」は実質N2程度の高い日本語能力が求められます。

技能実習「介護」との主な違い

特定技能「介護」と技能実習「介護」は、制度の目的が根本的に異なります。特定技能は介護分野の人材不足解消が目的であるのに対し、技能実習は日本の技術・技能を開発途上国へ移転する国際貢献が目的です。

この違いから、特定技能「介護」では転職が可能ですが、技能実習「介護」では原則として転職できません。業務範囲についても、特定技能「介護」は制限が少なく1人での夜勤も可能である一方、技能実習「介護」は段階的に業務範囲が広がり、夜勤は2年目以降でも複数名体制が条件となります。

また、人員配置基準への算入タイミングも異なり、特定技能「介護」は配属後すぐに算入できますが、技能実習「介護」は6か月後となります。近年、技能実習2号修了者が特定技能「介護」へ移行するケースが増えているのは、こうした制度の柔軟性の違いによるものです。

EPA介護福祉士候補者との制度の違い

特定技能「介護」とEPA介護福祉士候補者制度は、目的と対象国が大きく異なります。特定技能は人材確保が目的で国籍制限がないのに対し、EPAは経済連携協定の一環としてインドネシア・フィリピン・ベトナムの3カ国に限定されています。

受入れ手続きも、特定技能は民間の職業紹介機関を通じて行えますが、EPAは政府間協定に基づきJICWELS(国際厚生事業団)を通じた受入れとなります。また、EPA制度では介護福祉士国家資格取得が目的となっているため、現地での6か月研修と入国後の研修など準備期間が長く、採用から介護現場で実際に働き始めるまでに約1年かかります。

特定技能は比較的短期間で採用でき、すぐに現場で働けることがメリットです。施設側の人材確保の緊急度や長期的な育成方針によって、どちらの制度が適しているかを判断する必要があります。

外国人介護人材受入れ施設のメリットと注意点

特定技能「介護」の外国人材を受け入れることで、介護施設は人材不足の解消と多様な人材の確保というメリットを得られます。一方で、受入れに際しては施設側が遵守すべきルールや支援体制の整備が求められます。

ここでは、外国人介護人材を効果的に受け入れるための環境づくりのポイントや、法令上の制限事項、そして受入れ機関として必要な支援計画の策定について解説します。

即戦力として活躍できる環境づくり

特定技能「介護」の外国人材は、介護技能評価試験の合格者や技能実習2号修了者など、基礎的な介護知識と技術を有しています。また、技能実習生と異なり、配属後すぐに人員配置基準に算入でき、1人での夜勤も可能であるため、即戦力として期待できます。

ただし、安全なケア提供のためには、日本の介護現場に適応するための研修や教育プログラムの構築が重要です。特に、利用者とのコミュニケーションや介護記録など、日本語を使った業務への支援が必要となります。「外国人介護人材受入環境整備事業」を活用し、日本語によるコミュニケーション支援や生活支援などの費用助成を受けることも検討しましょう。

また、日本人スタッフとのチームワーク構築や文化・習慣の違いへの配慮も、外国人材が能力を発揮できる環境づくりには欠かせません。

受入れ人数の上限と雇用形態の制限

特定技能「介護」の外国人材の受入れには、人数と雇用形態に関する制限があります。受入れ人数は、事業所単位で日本人等の常勤介護職員数を超えない数までという上限が設けられています。この「日本人等」には、日本国籍を持つ職員だけでなく、在留資格「介護」や永住者、日本人の配偶者等の在留資格で就労する外国人も含まれます。

雇用形態については、特定技能「介護」の外国人材は「直接雇用」に限られ、派遣などの間接雇用は認められていません。また、労働条件面では、報酬の額や労働時間等が日本人と同等以上でなければならないとされています。これらの制限は、過度な外国人材への依存を防ぎ、質の高い介護サービスの提供と外国人材の権利保護を両立させるために設けられたものです。

参考:法務省出入国在留管理庁|介護分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針

特定技能外国人支援計画の策定義務

特定技能1号の外国人材を受け入れる施設は、「1号特定技能外国人支援計画」を策定し、実施することが義務付けられています。

この支援計画には、事前ガイダンス、出入国時の送迎、住居確保・生活に必要な契約支援、生活オリエンテーション、公的手続等への同行、日本語学習の機会の提供、相談・苦情への対応、日本人との交流促進、転職支援、定期的な面談・行政機関への通報という10項目が含まれます。

施設側で支援体制を整えることが難しい場合は、登録支援機関に支援計画の全部または一部を委託することも可能です。ただし、支援に要する費用を外国人本人に負担させることはできません。支援計画の実施状況については、定期的に出入国在留管理庁へ報告する義務があり、適切に実施されない場合は指導や罰則の対象となる可能性があります。

参考:法務省出入国在留管理庁|特定技能ガイドブック

特定技能から在留資格「介護」へ移行するためのルート

特定技能「介護」は最長5年の期間ですが、介護福祉士国家資格を取得すれば在留資格「介護」へ移行できます。介護福祉士試験の受験には3年間の実務経験と実務者研修(450時間)修了が必要です。最短では、特定技能で3年働きながら実務者研修を修了し、4年目に国家試験を受験するというスケジュールが可能です。

施設側の日本語学習支援や模擬試験実施などが合格率向上に効果的です。在留資格「介護」のメリットは、在留期間の制限がなくなり、訪問介護も含む全業務に従事でき、家族帯同も可能になる点です。技能実習からこの流れでステップアップするケースも増えています。

まとめ

特定技能「介護」は、日本の介護現場における深刻な人材不足に対応するため2019年に創設された画期的な在留資格です。

多様な取得ルート(介護技能試験合格、技能実習2号修了等)が用意され、採用側の選択肢が広がっています。業務範囲は身体介護を中心に幅広く、2025年度からは訪問介護も可能となる見込みです。

他の介護系在留資格と比較すると、配属後すぐに人員配置基準に算入できる点や夜勤対応可能な点が大きな強みとなります。受入れには支援計画策定等の義務がありますが、登録支援機関を活用した体制整備も可能です。5年の在留期間内に介護福祉士資格を取得すれば在留資格「介護」へ移行でき、長期的な人材確保の有効な戦略となります。

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