特定技能の在籍出向は可否どっち?条件と手順を解説
「特定技能人材をグループ会社間で在籍出向させたいけれど、制度上認められるのか不安…」そんな声をよく耳にします。結論からいうと、特定技能の在籍出向は原則不可ですが、転籍や一部分野の派遣なら条件付きで可能です。制度の仕組みと実務のポイントをわかりやすく解説します。
特定技能外国人の在籍出向は認められる?結論を先にお伝えします

特定技能人材の在籍出向は、結論からいうと原則として認められません。特定技能所属機関は原則として1つに限られ、複数の特定技能雇用契約を結べないためです。ただし、分野別運用方針において在籍型出向が認められているのは航空分野と鉄道分野に限られており、それぞれの分野別運用要領で定められた要件を満たす場合にのみ例外的に可能となります。全分野で親子会社間であれば認められるという制度ではない点に注意が必要です。また転籍(移籍型出向)は、出向先が特定技能雇用契約を締結して特定技能所属機関となること等、所定の条件を満たせば認められ得ます。さらに、農業・漁業分野に限った派遣であれば一定の要件のもとで可能です。まずは全体像を押さえていきましょう。
在籍出向は「条件付きで可能」が公式見解
在籍出向とは、出向元と出向先の両方と雇用契約を結ぶ働き方です。厚生労働省の定義でも在籍型出向は、出向元企業と出向先企業との間の出向契約によって、労働者が出向元企業と出向先企業の両方と雇用契約を結ぶものをいいますとされています。しかし特定技能制度では、特定技能外国人が所属する「特定技能所属機関」は1つに限られ、複数の「特定技能雇用契約」は認められません。よって、出向のうち、在籍型出向は認められません。一方で労働者が出向先との間でのみ雇用契約を締結する移籍型出向(転籍)については、出向先が外国人との間で「特定技能雇用契約」を締結することで「特定技能所属機関」となることは認められ得ます。「在籍出向ならグループ会社間で自由に融通できる」と考えるのは誤解なので、まずこの前提を押さえておきましょう。詳しくは厚生労働省 在籍型出向支援も参考になります。
派遣・転籍との違いを押さえておこう
在籍出向・転籍・派遣は似ているようで、法律上の扱いが大きく異なります。特定技能では「雇用契約」ではなく、「雇用に関する契約」と規定されており、請負契約や委任契約は含まれず、登録型派遣による外国人の受入れも認められません。派遣形態が認められるのは例外的で、農業分野及び漁業分野に限って、一定の要件のもと派遣形態が認められます。
| 形態 | 雇用契約の相手 | 特定技能での可否 |
|---|---|---|
| 在籍出向 | 出向元・出向先の両方 | 原則不可 |
| 転籍(移籍出向) | 出向先のみ | 在留資格変更手続きを経れば可 |
| 派遣 | 派遣元事業者 | 農業・漁業分野のみ条件付きで可 |
この表からもわかるように、特定技能で想定されているのは「1つの機関との直接雇用」が基本形です。次の章では、なぜここまで就労先が限定されているのか、その理由を見ていきましょう。
なぜ特定技能では就労先の制限が厳しいのか

特定技能はなぜここまで就労先を限定するのでしょうか。背景には、人手不足分野への即戦力確保と、適正な労務管理・支援体制を担保する制度趣旨があります。ここでは雇用契約の考え方と、在籍出向が問題になりやすい理由を解説します。
特定技能の就労資格は「雇用契約の相手先」が決まっている
特定技能の就労資格は、特定の受入れ機関との「雇用に関する契約」を前提に許可される在留資格です。入管法では、「雇用契約」ではなく、「雇用に関する契約」と規定されており、請負契約や委任契約は含まれず、登録型派遣による外国人の受入れも認められません。つまり在留資格そのものが、誰と契約するかという点まで厳密に紐づけられているのです。在籍出向のように複数企業と契約関係を持つ働き方は、この契約先固定の考え方になじみにくく、原則として認められない仕組みになっています。
在籍出向が問題になりやすい理由
在籍出向は、労働者が出向元・出向先の両方と雇用契約を結ぶ働き方です。労働者が出向元企業と出向先企業の両方と雇用契約を結ぶものをいいます。特定技能では特定技能外国人が所属する「特定技能所属機関」は1つに限られ、複数の「特定技能雇用契約」は認められませんので、この時点で制度と矛盾してしまいます。加えて支援計画の実施主体や責任の所在があいまいになりやすく、届出漏れや基準不適合が起こりやすい点も見逃せません。結果として不法就労助長罪などのリスクにつながる恐れがあるため、慎重な判断が求められます。
在籍出向が認められるための3つの条件

特定技能では在籍型出向は原則認められず、例外がある場合でも極めて限定的なケースにとどまります。①同一特定産業分野であること、②出向元が雇用主責任を持ち続けること、③労働者派遣法に抵触しない形であることの3点が挙げられることがありますが、これらは制度本文に明記された法定要件ではなく、分野ごとの運用方針等をふまえて個別に確認が必要な事項です。順番に解説します。
在籍型出向が例外的に認められる分野と要件
特定技能では在籍型出向は原則認められません。例外的に認められているのは、分野別運用方針で個別に定められた航空分野と鉄道分野に限られます。全分野に共通する法定要件として「3つの条件」が存在するわけではなく、各分野の運用方針・運用要領で定められた個別要件に基づいて判断されます。
航空分野・鉄道分野で確認される主な要件
在籍型出向が認められるためには、同一の業務区分内であること、出向が特定産業分野における技能向上を目的としていること、出向期間・待遇・支援主体などが事前に明確化されていることなど、各分野の運用要領に定められた要件を満たす必要があります。これらは分野ごとに具体的な内容が異なるため、検討の際は該当分野の要領別冊を必ず確認してください。
派遣形態との違いにも注意
在籍出向と混同されやすいのが労働者派遣ですが、特定技能で派遣形態が認められているのは農業分野と漁業分野に限られます。それ以外の分野では、指揮命令の実態が派遣に該当すると判断されれば制度違反となります。グループ企業間であっても、出向なのか派遣なのかの実態判断は慎重に行う必要があります。在籍型出向を検討する場合は、行政書士や弁護士など専門家への事前確認を強くおすすめします。
航空・鉄道分野で在籍型出向を検討する場合の実務手順

前述のとおり、在籍型出向が認められているのは航空分野と鉄道分野に限られます。これらの分野で在籍型出向を検討する際は、出向前の確認・準備、届出の要否、契約書のポイントという3つの実務フローを押さえておく必要があります。なお、対象分野以外のグループ企業間での人材融通については、転籍(移籍型出向)など別の方法を検討することになります。
出向前に確認・準備すること
出向を検討する前には、該当分野の要領別冊を確認したうえで、以下のチェックポイントを押さえておく必要があります。
- 出向先の業務区分が出向元と同一かどうかの確認
- 出向が特定産業分野における技能向上を目的としていることの整理
- 出向先の受入れ体制(協議会加入状況など)の確認
- 出向期間・待遇・支援主体の事前確認
- 本人への出向内容の説明と同意の取得
これらを事前に整理しておくと、後になって「要件を満たしていなかった」「本人の同意を得ていなかった」といったトラブルを防げます。在籍型出向は制度上きわめて限定的な運用であるため、行政書士や弁護士への事前相談を強くおすすめします。
出入国在留管理庁への届出は必要?
雇用契約の内容変更や、新たな特定技能雇用契約の締結・終了が生じる場合には、出入国在留管理庁への随時届出が必要です。特定技能所属機関は、特定技能外国人の受入れ後、受入れ状況等について、入管法第19条の18に基づき地方出入国在留管理局に届出を行わなければならないとされており、事由が生じてから14日以内に届け出る必要があります。届出を怠ると罰則の対象となるほか、次回以降の特定技能雇用契約の締結に支障が出る可能性もあります。詳細は出入国在留管理庁 特定技能所属機関からの随時届出に関するQ&Aで確認できます。
出向契約書に盛り込むべき主なポイント
在籍型出向や転籍を行う際は、契約書に以下のような内容を明記しておくことが大切です。
- 雇用主としての責任範囲(支援計画の実施主体、報酬支払い義務など)
- 従事する業務内容・業務区分が出向元と一致していること
- 出向の目的(技能向上目的であること)
- 賃金・労働時間などの労働条件
- 支援計画の実施主体と登録支援機関への委託状況
- 契約終了時の取扱いや在留資格に関する手続きの分担
なお、支援業務を登録支援機関に委託する場合、委託費用は外国人1人あたり月額2万〜4万円程度が相場とされています。契約書作成の段階でこうした費用負担の分担も決めておくと、後々の認識違いを防げるでしょう。
やってはいけない注意点・よくある落とし穴

在籍出向を安易に運用すると、思わぬ違法リスクを抱えることになります。ここでは特に起こりやすい2つの落とし穴、偽装派遣とみなされるケースと、分野・業務内容が異なる出向先への配置について解説します。
偽装派遣とみなされるケースとは
出向という名目であっても、実態が労働者派遣や偽装請負に該当すると判断されれば違法になります。指揮命令系統や契約形態が実態と乖離している場合、偽装派遣とみなされるリスクが高まります。不法就労助長罪に問われた場合の罰則は、現行の3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金から、5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金へと引き上げられますという形で2025年6月から厳罰化されています。「知らなかった」では済まされない領域なので、契約実態と業務実態が一致しているかをしっかり確認しましょう。
分野・業務内容が異なる出向先への派遣は認められない
前段の偽装派遣に続く、もう一つの典型的な違反パターンが分野・業務違いへの配置転換です。特定技能は指定書で定められた分野・業務以外での就労が認められていません。特定技能の外国人に別部署の業務を兼任させるケースなどが該当し、現場の判断で業務内容を変更すると違法になってしまいます。グループ会社であっても、出向先が異なる特定産業分野や業務区分であれば、不法就労に該当するリスクがあります。人手不足の解消を急ぐあまり、分野違いの部署へ安易に配置転換しないよう気をつけましょう。
まとめ

特定技能人材の在籍出向は、原則として認められません。特定技能所属機関は原則として1つに限られ、複数の特定技能雇用契約は認められないためです。なお、出向先が新たに特定技能雇用契約を結ぶ転籍は可能な場合があり、また農業・漁業分野では一定要件のもとで派遣が認められています。グループ会社間での人材活用を検討する際は、分野の一致や届出の要否、契約書の整備など、制度類型や分野ごとに確認すべき点が多くあります。判断に迷う場合は、社会保険労務士や行政書士、外国人採用支援サービスなど専門家に相談し、不法就労助長罪などのリスクを避けながら適正な運用を進めましょう。なお、こうしたリスクの有無は個別の運用実態によって左右されるため、一般論として断定せず、都度確認することが大切です。
特定技能 在籍出向 可否についてよくある質問

特定技能人材の在籍出向について、読者からよく寄せられる質問にお答えします。
特定技能人材を在籍出向させることはできますか?
原則としてできません。特定技能所属機関は1つに限られ、複数の特定技能雇用契約が認められないためです。例外的に在籍型出向が認められているのは、分野別運用方針で個別に定められた航空分野と鉄道分野に限られ、各分野の要領別冊に定められた要件を満たす場合にのみ可能です。それ以外の分野で人材を融通する方法としては、転籍(移籍型出向)や、農業・漁業分野に限った派遣があります。
在籍出向と転籍、どちらが現実的な選択肢ですか?
航空・鉄道分野以外では在籍型出向自体が認められていないため、グループ会社間で人材を融通したい場合は転籍が基本的な選択肢となります。出向先が新たに特定技能雇用契約を締結し、出入国在留管理庁への手続きを行うことで対応できます。
グループ会社間であれば在籍出向の例外は認められますか?
グループ会社間であること自体は例外要件ではありません。在籍型出向が認められるのは航空分野と鉄道分野に限られ、資本関係の有無にかかわらず、各分野の運用要領に定められた要件を満たす必要があります。対象分野以外では、グループ会社間であっても在籍型出向は認められません。
無許可で在籍出向のような運用を行った場合、どのような罰則がありますか?
実態が労働者派遣や偽装請負に該当すると判断されれば、不法就労助長罪に問われる可能性があります。現在の罰則は3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(又は併科)ですが、2027年4月1日からは5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金(又は併科)に引き上げられます。
在籍出向の可否について相談できる窓口はありますか?
該当分野の要領別冊を確認するほか、行政書士や弁護士、外国人採用支援サービスに相談する方法があります。在籍型出向は制度上きわめて限定的な運用であるため、検討段階で専門家への相談を強くおすすめします。