営業代行の契約書とは?失敗しないためのポイントを解説します
企業の根幹業務ともいえる営業活動を外部へ委託するというのは少なからず不安がつきまとうものです。ましてや、はじめて営業代行を活用するとなれば、営業代行会社との折衝や費用対効果など心配事が尽きないのではないでしょうか。こういった心配やリスクを軽減するのに重要な役割を果たすのが契約書です。営業代行会社と交わす契約書の中で、委託する業務の範疇や互いの責任・義務などをきちんと定めておけばさまざまなリスクを回避することができます。では、リスクに備えながら営業代行で成果を出すには、どのような点を注意して契約書を作成すればよいでしょうか。営業代行で失敗しない契約書作成のポイントをご紹介します。
営業代行で用いられる契約形態とは?
業務委託契約書とは
業務委託契約とは、自社業務のうちの一部、あるいはすべての業務を外部の専門業者へ委ねる契約のことです。作業や業務を委託する契約には「請負契約」と「委任(準委任)契約」がありますが、営業業務の委託は一般的に準委任契約となります。営業業務を営業代行会社へ委託する場合、委託するのは「業務」の委託であって「販売」の委託ではないことは留意しておく必要があります。
また、営業代行会社と委託契約を結ぶ際の契約書は「業務委託契約書」となります。この契約では、依頼主と営業スタッフに雇用関係はありませんので、営業スタッフへ直接指示を出したり、指揮を執ったりすることができません。この指揮命令関係が守られない場合、労務上の問題で訴えられることもありますので注意しましょう。一方で、依頼主は営業スタッフに対して、勤務時間、残業の有無、休暇、賞与など労務管理の責任は負いません。これら労務管理の責任や業務の進捗確認責任などはすべて営業代行会社が負います。
営業派遣との違いとは
営業代行と営業派遣の違いは、営業スタッフへの指揮命令権にあります。営業派遣とは、派遣会社が営業スキルを備えた人材を依頼企業へ派遣するサービスで、指揮命令権は派遣先企業にあります。派遣された営業スタッフは、派遣会社と雇用契約を結んだうえで、派遣先企業の指揮命令を受けて業務を行うことになります。一方、営業代行では営業スタッフへの指揮命令権は代行会社にあり、代行会社は営業スタッフをマネジメントして委託された業務を遂行します。依頼主は営業スタッフの活動を直接管理することができませんので、営業代行会社へ業務を委託する際には、事前の綿密な打ち合わせと情報交換が不可欠となります。
業務委託契約のメリット
①費用を変動費として扱える
雇用契約や派遣契約と異なり、稼働量に応じたコストだけの変動費扱いになります。
そのため、経験の少ない市場における新規プロジェクトや、期間限定のイベントの場合、撤退時(またはイベント終了時)に残された固定費に悩む必要がなくなります。
②営業スタッフの契約期間の縛りがない
雇用契約には5年ルール、派遣契約には3年ルールが存在します。
(参考:ラウンダー組織で使われる主な3つの契約の基本【雇用契約・派遣契約変】)
環境によっては悩ましい事態になることもありますが、業務委託契約では契約期間に関する制約がないので、柔軟に対応できます。そのため、雇用のリスクをなくしたうえで、ノウハウを蓄積した委託会社、スタッフに継続的に仕事を依頼することも可能です。
③管理・教育の手間と責任が発生しない
労務管理は行わない(行えない)ため、勤怠などの管理の手間が削減されます。また、何らかの事故が起こった場合は、原則的に営業代行会社の責任のもとで対応しますので、依頼主が責任を負う必要がありません。業務委託を利用すれば、その分の社員採用・教育の負荷が減り、コスト・リスクをぐっと抑えることが可能となり、経営の安定にもつながります。
上記のほかにも、業務委託の営業代行を利用することで、自社にはないノウハウを活用することができたり、自社社員がコア業務に集中したりすることも可能になります。
業務委託のデメリット
①直接指揮命令ができない
依頼主と営業代行会社(スタッフ)に使用従属関係はなく、スタッフに直接の指揮命令ができません。営業代行会社は、業務依頼書にしたがって委託された業務を行います。業務依頼書などのフォームを用いて具体的に業務内容を指定することが必要です。
②法的には時間的・空間的拘束ができない
業務委託において、始業時刻・終業時刻、就業場所をあらかじめ指定すると使用従属関係の労働契約とみなされる恐れがあります。依頼がくれぐれも「指示、命令」とならないように注意が必要です。もし、上記のような指定が必要な場合は、派遣契約を締結しましょう。
そのほか、業務委託を利用した場合は、メリットと逆で、自社内にノウハウや経験が蓄積できないというデメリットもあります。
営業代行の契約書はどのようなものか?
業務委託契約書の役割
一般的に営業代行会社と結ぶ「業務委託契約書」には委託業務の内容、業務の遂行方法、契約期間、報酬額と支払い時期、秘密保持事項などを明記します。ビジネス上は口約束でも契約として成立しますが、こういった内容を契約書として交わすのには理由があります。
ひとつは、依頼主と営業代行会社で業務内容を相互認識し、そのことを証明するためです。これらを契約書として交わすことで、権利や義務といったお互いの立場を明確にすることができるのです。契約書で業務内容を明記しておけば、業務の進め方で齟齬が生じる可能性が低くなりますし、依頼を受けた代行会社はいつまでに成果を出せばいいのか、依頼主はいつ料金を支払うのかといったことを相互で理解することができます。
契約書の果たすもうひとつの役割として、トラブルやリスクの回避があげられます。責任と義務を事前に取り決めておくことで、意見の相違やトラブルの発生を防止でき、万が一トラブルになり法的処置に及んだ場合でも事を有利に運ぶことができます。さらには、契約書は法的な証拠にもなるので、契約不履行や不正の抑止力にもなります。契約書を交わすことは、業務をスムーズに運ぶばかりではなく、自分たちの身を守ることにもつながるのです。
業務委託締結までの流れ
業務を委託する際、必ずしも業務委託契約書を交わすことが法律で定められているわけではありません。しかし、相互の認識違いやトラブルを回避するためにも、正しく手順を踏んだうえできちんと契約書を交わすことが重要です。一般的に業務委託契約を結ぶ際は、まず営業代行会社と委託業務内容の擦り合わせを行います。続いて営業代行会社からの見積提出を受けて契約条件を決定します。その後、依頼主もしくは営業代行会社が契約書を作成し、双方合意のもと捺印して契約書を発行します。契約書の作成には、営業部や法務部といった他部署の確認も必要になりますので、社内の各部署と連携して進めることも大切になってきます。
営業代行の契約書を締結する際のチェックポイントは?
契約書の項目とポイント
実際に業務委託契約書を作成する場合は、どのような項目についてどのように記載すればよいのでしょうか。以下は、業務委託契約書に記載する主な項目とポイントです。
目的
何を目的に営業代行を利用するのかを明確にします。まず「営業」代行は、「販売」代行ではないことを認識し、何のために何を委託したいのかをあらかじめ決めておきましょう。この文言が契約成立の文言となります。
業務内容
業務内容について、具体的な項目を記載します。ここで具体的に記載することで、業務内容が明確になります。委託する内容が多い場合には、別途資料を添付するなどを書き加えておきましょう。また、具体的な業務に付随する業務がある場合は、その旨を記載しておくとよいでしょう。
契約期間
開始日と終了日を記載し、契約期間を明確にします。自動更新の有無や、その方法も記載しておきましょう。
営業代行の契約では、3か月、6か月、1年といった形で締結し、解約の申し入れがなければ、原則として自動更新とするのが一般的です。
業務委託料、支払い
業務委託料に関する支払条件や支払方法を記載します。具体的な支払い方法とタイミング、振り込み手数料の扱いについても記載します。
支払義務の履行を遅延した場合の遅延損害金についても取り決めをしておきましょう。
報告義務
依頼主が営業代行会社に対して報告を求めた場合は、具体的な回答をすべき旨を定める事項です。
特に報告内容、報告の方法などについても記載して、具体性を持たせておくほうがよいでしょう。
資料などの貸与
業務のために機器や多数の資料が必要になる場合があります。依頼主は必要な機器の貸与、情報開示を行い、営業代行会社は秘密保持に従い使用することを記載します。また、業務が終了した際の返却や破棄の方法についても明記しておきます。
秘密保持
契約にあたっては、企業秘密や営業上の秘密事項など社外機密事項を取り扱うこともすくなくありません。当事者(依頼主及び営業代行会社)間で、業務上取得した情報を第三者に知らせてはならない旨を記載します。
業務委託
営業代行会社は、自己の裁量と責任において委託業務を遂行します。依頼主は営業代行会社やそのスタッフに直接指示命令ができません。営業代行会社は自己の責任において業務遂行するため、自らの責任における第三者との紛争については自らの責任で解決しなければなりません。
また、営業代行会社がさらに下請に再委託することの是非や要件についても細かく記載しておくようにします。
損害賠償
契約の履行にあたり、双方が相手方に仮に損害を与えてしまったような場合には、損害賠償請求できる旨を記載します。
契約解除
債務不履行や契約違反が生じた場合は契約の解除をすることができます。契約を解除できる条件を記載します。契約期間中の解除については、被害を受けた側が損害賠償を請求できる旨も記載するとよいでしょう。
反社会的勢力の控除
「暴力団排除条例」により、契約に「暴力団排除条項」を定める努力義務が規定されています。反社会的勢力は民事法・刑事法上違法にならないように巧みに行動するため、取引相手に反社会的勢力が含まれていることが後に発覚した場合、暴力団排除条項によらずに債務不履行等に基づく契約解除は困難になります。企業の信用やブランド価値低下のリスクにもなるため、契約書に記載しておいたほうがよいでしょう。
協議事項
業務委託は基本的に細かく記載しておくべきですが、それでもカバーしきれないことも多々発生します。その場合には業務委託契約書に書いていない事項は、双方協議のうえで解決しますという規定を定めておきます。
専属的合意管轄
当事者間で代金不払いトラブルや損害賠償請求トラブルが発生し、裁判により解決をしなければいけないことに備えて「どこの裁判所で裁判を行うか」をあらかじめ決めておくことができます。
個別契約書
企業対企業で業務委託契約を締結する際は、業務委託基本契約を締結し、案件ごとに条件などが変更になる可能性がある項目(業務内容・契約期間・業務委託料など)については個別契約書を作成して契約を交わすのが一般的です。その際は、個別契約の「成立の要件」などもしっかり盛り込んでおく必要があります
取扱う商品・サービスや訪問エリア、訪問先なども個別契約書に明記します。また、業務内容を遂行するための業務日数や訪問数なども事前に取り決めをしておきましょう。
電子契約
近年、政府の「ペーパーレス」「脱ハンコ」推奨の流れから、多くの企業において電子契約書の導入が加速化しています。電子契約書には、契約締結時間の短縮や業務の効率化といった利点があります。印刷から製本、封入、郵送、返送、ファイリングといった工程を省略することができるほか、紙や切手代、印刷代などのコストを削減することができます。また、契約書の紛失や改ざんといったリスクマネジメントの観点において、コンプライアンスの強化につながることも見逃せないメリットです。ただし、電子契約の流れが広まってきているとはいえ、すべての企業が導入しているわけではありません。取引先が電子契約に対応できるかどうか、事前に確認しておくことも必要です。
まとめ
営業代行を活用し成功させるには、依頼主と営業代行会社の両社が共通認識を持って業務に当たらなければなりません。両社の認識を形にしたものが業務委託契約書といえるでしょう。両社で取り決めたことをはっきりと明示することで、お互いを信頼し、安心して業務を進めることができます。契約書によってお互いの責任と義務を、誠意をもって約束することが営業代行を成功させる第一歩となるのです。