外国人就業規則の整備ガイドで安心の雇用スタートを
外国人従業員の採用が決まったものの、就業規則をどう見直せばよいか分からず不安を感じていませんか。日本人前提のルールのままでは誤解やトラブルを招きかねません。本記事では多言語化・宗教配慮・服務規律・ハラスメント防止という4つの視点から、外国人 就業規則 整備の具体的な進め方をわかりやすく解説します。
外国人従業員に対応した就業規則整備で押さえるべき4つのポイント

外国人従業員を初めて迎える企業では、就業規則をどこまで見直すべきか迷う担当者さまが少なくありません。日本人同士なら暗黙のうちに伝わるルールも、文化や言語の異なる外国人には届かないことがあるからです。理解不足のまま働いてもらうと、賃金や勤務ルールをめぐる誤解、宗教・食事面への配慮不足による不満など、思わぬ労務トラブルに発展するおそれがあります。
こうした事態を防ぐために整備しておきたいのが「多言語化」「宗教・文化への配慮規定」「服務規律の明確化」「ハラスメント防止規定の充実」という4つのポイントです。多言語化や宗教・文化への配慮規定自体は、法令上の一律の義務ではありません。一方、職場のハラスメント防止については、事業主に雇用管理上必要な措置を講じる義務があります。就業規則への規定整備は、その実施方法の一つです。いずれも外国人従業員が安心して働ける環境をつくるうえで欠かせない要素といえます。
次章以降では、なぜ今これらの整備が必要とされているのかという背景から、それぞれのポイントの具体的な進め方まで、順を追ってご紹介します。就業規則の見直しに不安を感じている人事労務担当者さまや経営者さまは、ぜひ自社の規則と照らし合わせながら読み進めてみてください。
なぜ今、外国人向けに就業規則を見直す必要があるのか

日本で働く外国人労働者は年々増え続けており、令和7年10月末時点で257万1,037人と過去最多を更新しました。こうした状況を踏まえ、日本人だけを想定した就業規則のままでよいのか、あらためて見直す企業が増えています。
日本人前提の就業規則では外国人従業員に通じない理由
日本の就業規則には、条文には書かれていない「暗黙の了解」が数多く存在します。始業時刻より早めに出社する慣習や、残業を当然視する雰囲気などは、日本の職場文化を知らない外国人にはそのまま伝わりません。
また、時間や休暇に対する価値観の違いも誤解の原因になります。例えば有給休暇の使い方や宗教上の礼拝時間に対する考え方は、国や文化によって大きく異なるものです。就業規則が日本語のみで抽象的な表現にとどまっていると、外国人従業員は「なぜそのルールがあるのか」を理解できないまま働くことになり、不満や離職につながりかねません。
就業規則が整備されていないと起きやすいトラブル事例
整備不足や説明不足が引き起こす代表的なトラブルには、賃金の認識違いがあります。募集時に聞いていた金額と実際の振込額が異なると感じ、不信感を抱くケースは少なくありません。
そのほか、退職の手続きや必要な予告期間を理解しておらず無断で出社しなくなる、宗教上の食事制限や礼拝への配慮がないまま働かせてしまい不満が募るといった事例も見られます。これらはいずれも、就業規則の内容が適切に伝わっていれば防げた可能性が高いものです。次章から、こうしたトラブルを防ぐための4つの整備ポイントを具体的に見ていきましょう。
外国人従業員に対応した就業規則の整備ポイント①:多言語化

厚生労働省の外国人雇用管理指針では、労働契約締結時に賃金や労働時間などの主要な労働条件について、外国人労働者が理解できるよう内容を明らかにした書面を交付するよう努めるものとされています。また、社会保険等の説明については、母国語等を用いて説明する等、外国人労働者が理解できる方法により周知に努めることが求められています。平成31年4月の「外国人雇用管理指針」改正では、労働・社会保険に係る法令の内容及び保険給付に係る請求手続等について、多言語対応の広報資料等を活用し、母国語等を用いて説明する等、外国人労働者が理解できる方法により周知に努めることが明記されました。まずは全文翻訳が必須なのかという疑問から確認していきましょう。
すべての規則を母国語に翻訳する必要はある?
結論から言うと、就業規則そのものを母国語に全訳する法律上の義務はありません。もっとも、就業規則は周知されて初めて効力を持つとされており、外国人従業員が内容を理解できなければ意味がありません。
厚生労働省の指針でも、社内規程等の多言語化そのものではなく外国人労働者が円滑に職場に適応できるよう、社内規程その他文書等の多言語化等、職場における円滑なコミュニケーションの前提となる環境の整備に努めることが求められています。全文翻訳が難しい場合は、やさしい日本語版を併用したり、口頭で丁寧に補足説明したりする対応でも十分に配慮を示すことができます。
最低限、多言語対応すべき条項とその優先順位
全文翻訳が難しい場合は、生活や労働条件に直結する条項から優先的に対応するとよいでしょう。具体的には以下のような項目が挙げられます。
- 賃金・労働時間・休日に関する規定
- 解雇事由や退職手続きに関する規定
- 懲戒の種類と事由に関する規定
- ハラスメント相談窓口や苦情処理の手続き
翻訳言語は、自社に多く在籍する国籍の言語や英語を軸に、やさしい日本語を組み合わせる方法が現実的です。なお、就業規則等の多言語化は助成金の対象となることもあり、人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)では受給要件をすべて満たした場合に、1制度導入につき20万円(上限80万円)が支給されます。翻訳費用の負担を抑えたい場合は活用を検討してみてください。
外国人従業員に対応した就業規則の整備ポイント②:宗教・文化への配慮規定

信教の自由は誰にとっても大切な権利であり、外国人従業員の宗教的な習慣を軽視すると職場トラブルの火種になりかねません。就業規則に宗教・文化への配慮規定を盛り込むことは、公平な職場づくりの第一歩です。
礼拝時間・食事制限・服装規定はどう対応すればよいか
イスラム教を信仰する従業員の場合、1日5回の礼拝や豚肉・アルコールを避ける食事制限、ヒジャブの着用といった習慣への配慮が必要になる場面があります。休憩時間を柔軟に運用し、礼拝スペースを確保するだけでも従業員の安心感は大きく変わるでしょう。
社員食堂がある場合は、宗教上食べられない食材を分かりやすく表示したり、代替メニューを用意したりする工夫も有効です。服装規定についても、宗教上の理由による着用物を一律に禁止するのではなく、業務上の安全衛生に支障がない範囲で認める運用が望まれます。
配慮規定を追加する際の具体的な記載例
配慮規定は服務規律の章に盛り込むと分かりやすくなります。例えば「会社は、業務に支障のない範囲で、従業員の宗教上の習慣(礼拝、食事、服装等)に配慮するものとする」といった一文を設ける方法があります。
休暇に関しても「宗教上の理由による休暇取得の申出があった場合、会社は業務に支障のない範囲でこれを考慮する」といった規定を加えると、従業員も申し出やすくなります。あわせて、宗教を理由とした不利益取扱いを禁止する旨をハラスメント防止規定と連動させておくと、より実効性のある就業規則になります。
外国人従業員に対応した就業規則の整備ポイント③:服務規律の明確化

服務規律は就業規則の絶対的必要記載事項ではありませんが、企業秩序を保つうえで欠かせない項目です。日本人にとって当たり前の職場ルールを、外国人従業員向けにあらためて言語化しておく必要があります。
「暗黙のルール」を文章化することが外国人採用では不可欠
残業を頼まれたら基本的に対応する、上司に相談してから休暇を取る、報告・連絡・相談をこまめに行うといった日本特有の慣習は、条文化されていない「暗黙のルール」として職場に根付いています。
こうした慣習を知らない外国人従業員が悪気なくルールを破ってしまい、注意されても納得できずトラブルになるケースは珍しくありません。暗黙の了解を服務規律として明文化し、入社時にその背景も含めて説明することで、こうしたすれ違いを未然に防ぐことができます。
服務規律として明文化しておくべき項目一覧
外国人雇用をきっかけに、以下のような項目を服務規律として具体的に明文化しておくとよいでしょう。
- 遅刻・欠勤・早退時の連絡方法と連絡先
- 服装・身だしなみに関するルール
- 秘密保持や個人情報の取り扱い
- 会社施設・設備の利用ルール
- 就業時間中の政治活動・宗教活動の制限
- 副業・兼業に関する届出ルール
これらを曖昧なままにしておくと、注意指導や懲戒処分の際に「聞いていない」という反論を招きやすくなります。具体的な行動レベルまで落とし込んで記載しておくことが大切です。
外国人従業員に対応した就業規則の整備ポイント④:ハラスメント防止規定の充実

国籍や文化的背景を理由とした差別的な言動、いわゆるレイシャルハラスメントは、外国人雇用に特有のリスクといえます。厚生労働省のハラスメント関係指針・通達において、国籍など属性を理由としたハラスメントがパワハラに含まれ得ることが示されています。就業規則のハラスメント防止規定を充実させ、リスクに備えましょう。
外国人従業員が被害を受けやすいハラスメントの種類
レイシャルハラスメントとは、特定の人種や民族、国籍を理由に、相手を侮辱したり、いやがらせをしたりする行為を指します。出身国や文化を揶揄する発言のほか、合理的な理由なく日本人と外国人で業務や評価を分けることも該当します。
そのほか、宗教上の行為を頭ごなしに否定する言動や、悪意はなくても無意識の偏見から特定の国籍の従業員を避けてしまうといった行為も、パワハラやセクハラの一形態として問題になり得ます。管理職も含めた社内教育を通じて、こうしたハラスメントへの理解を深めておくことが大切です。
国籍・文化的背景を理由とした差別を防ぐ規定の盛り込み方
就業規則やハラスメント防止規程には、国籍・人種・宗教を理由とする差別的言動を禁止する旨を明記し、該当した場合は懲戒処分の対象となることを規定と連動させておきましょう。
実効性を持たせるためには、事業主の方針を明確化して周知・啓発することに加え、相談、苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備することが欠かせません。相談窓口は多言語で周知し、外国人従業員が言語の壁を感じずに相談できる体制を整えることが実効性を高めるポイントです。
就業規則を整備する際の注意点と進め方

4つの整備ポイントを踏まえて内容を固めたら、次は手続き面の対応です。就業規則の変更は、労働者代表からの意見聴取や労働基準監督署への届出、従業員への周知まで一連の流れで行う必要があります。自社での対応が難しい場合は、社会保険労務士など専門家への相談も検討しましょう。なお、特定技能外国人の受け入れに伴い登録支援機関へ支援業務を委託する場合、委託費用は外国人1人あたり月額2万〜4万円程度が相場とされています。
労働基準監督署への届出は就業規則変更後も必要
労働基準法第89条では、常時10人以上の労働者を使用する使用者に、就業規則の作成と所轄の労働基準監督署長への届出が義務付けられています。なお、就業規則を変更する際にも、同様に届出が必要です。
届出の際は、労働者代表からの意見を記載した意見書を添付する必要があります。届出は、電子申請(e-Gov電子申請)でも対応可能ですので、企業の状況に応じて活用しましょう。届出や作成を怠った場合は労働基準法120条により、罰則として30万円以下の罰金を科せられることがありますので、変更のたびに忘れず手続きを行いましょう。
外国人従業員本人への説明・周知を忘れずに行う
就業規則は、労働者に周知されて初めて労働契約の内容としての効力を持ちます。就業規則の周知は、法的には「労働者が知ろうと思えば、いつでも確認できる状態にしておくこと」が必要ですとされていますが、外国人従業員には日本語の壁があるため、これだけでは実質的に伝わっていないことがあります。
入社時に母国語やさしい日本語を用いた説明会を実施したり、条文の背景にある理由まで丁寧に伝えたりする工夫が求められます。形だけの周知にとどめず、本人が本当に理解できたかを確認する姿勢が、後々の労務トラブルを防ぐことにつながります。
まとめ

外国人 就業規則 整備を進めるうえでは、多言語化・宗教配慮・服務規律の明確化・ハラスメント防止規定の充実という4つの視点が欠かせません。いずれも法律上必須ではない部分を含みますが、外国人従業員が安心して働ける公平な職場をつくるうえで重要な役割を果たします。
就業規則は一度整備して終わりではなく、従業員の在籍状況や法改正に合わせて継続的に見直していくものです。自社だけでの対応に不安がある場合は、社会保険労務士や外国人採用支援サービスなど専門家の力を借りながら、着実に整備を進めていきましょう。
外国人 就業規則 整備についてよくある質問

最後に、外国人 就業規則 整備に関して読者さまからよく寄せられる疑問をQ&A形式でまとめました。実務対応の参考にしてください。
外国人従業員専用の就業規則を別に作ってもよいですか?
日本国憲法第14条や労働基準法第3条により、国籍のみを理由に労働条件を区別すると不合理な差別と判断されるおそれがあります。基本規則は共通にしたうえで、宗教配慮など合理的な理由がある部分だけを個別に定める方法が安全です。
就業規則の翻訳費用に使える助成金はありますか?
人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)では、就業規則等の多言語化が対象措置の一つとされています。要件や金額は年度により変更される場合があるため、厚生労働省の公式サイトなどで最新情報を確認してください。
宗教への配慮はどこまで対応すればよいですか?
法律上の一律の基準はなく、業務に支障が出ない範囲で合理的に対応すれば足ります。礼拝時間の柔軟な運用や食事表示の工夫など、無理のない範囲から始めるとよいでしょう。
就業規則の変更届はいつまでに提出すればよいですか?
労働基準法第90条により届出義務は定められていますが、明確な期限は規定されていません。実務上は、遅滞なく、施行日までに所轄の労働基準監督署へ届け出るのが原則です。
就業規則の整備を専門家に依頼する場合の費用感を教えてください。
社会保険労務士への依頼費用は規模や内容により異なります。また外国人採用時に人材紹介会社を利用する場合、紹介手数料は採用者の年収の30〜35%程度が相場とされています。自社の状況に応じて専門家への相談を検討してみてください。