外国人採用の国籍多様化で防ぐリスク管理と安定運営術
外国人採用を進める中で、「特定の国籍に偏っていて大丈夫かな」と不安に感じていませんか。実は、1つの国籍に頼った採用は、政情不安やビザ規制の変更で突然ストップしてしまう危険をはらんでいます。この記事では、国籍の多様化によるリスク管理の考え方と、複数国から採用する具体的な手順をわかりやすく解説していきます。
外国人採用で国籍が1カ国に偏ると何が起きるか:結論から言うと「採用が突然止まるリスク」がある

外国人採用を検討し始めると、つい採用しやすい国籍に集中してしまいがちです。しかし結論から言うと、1つの国籍への偏りは、ある日突然採用ができなくなるリスクを抱えています。背景には政情不安・ビザ規制の変更・送り出し停止という3つの要因があります。まずは国籍の集中がどのような状態を指すのか、具体的に見ていきましょう。
国籍の集中とはどういう状態か
国籍の集中とは、自社で雇用する外国人材の大部分が特定の1カ国出身者に偏っている状態を指します。厚生労働省の届出データによると、国籍別ではベトナムが最も多く605,906人で外国人労働者数全体の23.6%を占めています。もし自社の外国人スタッフの8割・9割が同じ国籍という状況なら、それはまさに国籍集中が進んでいるサインといえるでしょう。特定の国籍に強みがあるのは自然なことですが、依存度が高すぎると次に説明するようなリスクにつながります。
実際に採用が止まるとどんな影響が出るか
送り出し国からの人材供給が急に止まると、現場は一気に混乱します。欠員補充が遅れて既存スタッフの負担が増えるほか、代替の人材紹介を急いで依頼すると、紹介手数料として30万〜50万円程度の費用が発生することも珍しくありません。さらに新たな送り出しルートを一から構築する手間もかかり、採用計画そのものが大きく狂ってしまいます。では、なぜ1つの国籍への依存がこれほど大きなリスクになるのでしょうか。次の章で、その背景を詳しく見ていきましょう。
なぜ特定の1カ国への依存がリスクになるのか

前章で触れた「採用停止リスク」の背景には、大きく3つの要因があります。送り出し国側の事情、日本側の制度変更、そして職場内のコミュニケーション課題です。ここから、それぞれの要因を具体的な事例とともに掘り下げていきましょう。
送り出し国の政情不安やビザ規制が変わると採用できなくなる
送り出し国側で政情不安が起きると、労働者の送り出し自体が止まったり、遅延したりすることがあります。過去には、送出国の政変や自然災害の影響で、労働者の出国に必要な公的書類の発給が滞り、採用スケジュールに影響が出たケースも報告されています。技能実習では認定送出機関を利用する仕組みがあります。特定技能では国籍国ごとに必要な送出手続が異なり、認定送出機関の利用が求められる国もあります。こうした現地側の事情がそのまま採用スケジュールの遅延につながるため、対象国の手続きを事前に確認しておくことが重要です。
日本側の制度変更が特定国だけに影響するケースがある
リスクは送り出し国側だけでなく、日本の入管施策が特定国籍だけを対象に発動されるケースもあります。実際に出入国在留管理庁は、海外労働身分証明カードの発給遅れを踏まえ、ミャンマー国籍の方の就労に関する在留資格認定証明書の有効期間を3か月から6か月に延長する措置を取りました。このように、受入れ国側の制度が特定国籍だけを対象に変わることもあり、片方の事情だけを注視していては採用の見通しが立てにくくなります。日本側・送り出し国側の両方に目を配ることが、リスク管理の第一歩です。
国籍が1カ国に偏ると職場内のコミュニケーションにも影響が出やすい
同じ国籍の人材が集まると、その言語でのコミュニティが職場内に自然と形成されます。すると日本人スタッフとの間に情報格差が生まれたり、後から入社した少数派国籍の社員が孤立してしまったりする場面も見られます。休憩時間の会話や業務連絡が特定の言語に偏ると、他の国籍のスタッフが疎外感を覚えてしまうこともあるでしょう。こうした小さなすれ違いの積み重ねが、離職や職場トラブルの火種になりかねません。国籍の多様化は、こうしたコミュニケーション面のリスクを分散する意味でも効果的です。
国籍ごとのリスクを比較して理解する

ここまでのリスク要因を踏まえると、国籍ごとの特徴を比較しながら自社の採用構成を見直すことが大切だとわかります。ここでは主要な送り出し国のリスク傾向を整理したうえで、「採用ポートフォリオ」という考え方をご紹介します。
主な送り出し国のリスク傾向を整理する
主要な送り出し国には、それぞれ得意な業種やリスクの傾向があります。次の表で全体像を確認してみましょう。
| 国籍 | 得意な業種の傾向 | 二国間協定(MOC) | リスク傾向 |
|---|---|---|---|
| ベトナム | 製造業・建設業を中心に幅広い分野 | 締結済み | 経済成長により送り出し数の伸びがやや鈍化 |
| インドネシア | 建設業・介護分野で増加中 | 締結済み | 受け入れ実績が比較的新しく体制整備が発展途上 |
| フィリピン | 製造業・サービス業に幅広く対応 | 締結済み | 人数は安定しているが急増は見込みにくい |
| ミャンマー | 医療福祉分野での増加が目立つ | 締結済み(2024年4月から5年間更新) | 政情不安によるビザ発給遅延のリスクがある |
| ネパール | 飲食・小売業、留学生からの転換が多い | 締結済み(2024年4月から5年間更新) | 政治情勢の変動を受けやすい面がある |
出入国在留管理庁によると2024年4月、日本は16か国と二国間協定を締結しています。またネパールとミャンマーとの協力覚書は、いずれもMOCの継続期間を2024年4月1日から5年間更新済みとなっています。業種別の内訳を見ると、医療、福祉はベトナム・フィリピン国籍の比率が下がる一方でミャンマーは5.5pt増加しています。一方で建設業においてはベトナムのシェア率が前年より3.4pt減少したのに対して、インドネシアは4.3pt増加しています。こうした傾向を踏まえ、自社の業種に合った組み合わせを検討する材料にしてみてください。
自社の採用構成を「採用ポートフォリオ」として見直す
投資の世界では、1つの銘柄に資金を集中させず複数の資産に分けることでリスクを抑える「分散投資」という考え方があります。外国人採用もこれと同じで、国籍構成を「採用ポートフォリオ」として捉え直すと、リスク管理の道筋が見えやすくなります。まずは自社の外国人材を国籍別に数え、全体に占める割合を数値化してみましょう。特定の1カ国が全体の7割・8割を占めているなら、分散を検討するタイミングです。複数国から少しずつ採用することで、どこか1カ国で問題が起きても事業全体への影響を小さく抑えられます。
採用国を複数に分散する具体的な手順

国籍の分散が大切だとわかっても、実際にどう進めればよいか迷う方も多いでしょう。ここでは「現状確認」「代替国選定」「受け入れ体制整備」という3つのステップに分けて、具体的な進め方をご紹介します。
ステップ1:現在の国籍構成と依存度を確認する
最初のステップは、自社に在籍する外国人材の国籍別人数と比率を洗い出すことです。社内の雇用台帳やハローワークへの届出データを整理し、国籍ごとの人数を一覧化してみましょう。厚生労働省が公表する国籍別の全国データと自社の構成を比較すると、自社がどの程度特定国籍に偏っているかが客観的に把握できます。もし特定の1カ国が過半数を占めているようなら、次のステップで代替候補となる国籍を探し始めるタイミングです。
ステップ2:代替候補となる国籍と採用ルートを探す
次に、自社の職種と相性の良い代替候補国を探します。日本は17か国と特定技能に関する二国間の協力覚書を作成しており、各国ごとに送り出しの仕組みや手続きが定められています。業種別に強みを持つ国籍のデータも参考にしながら、候補となる国を2〜3カ国程度リストアップしてみましょう。候補が決まったら、その国に対応する送り出し機関や登録支援機関、人材紹介会社に問い合わせて、実際の採用ルートを確認していきます。
ステップ3:複数国対応の受け入れ体制を整える
複数国籍の人材を受け入れる際は、社内体制の整備も欠かせません。多言語対応の業務マニュアル作成、宗教や食文化への配慮、専用の相談窓口の設置など、事前に準備しておきたいポイントをリストにまとめました。
- 就業規則や安全マニュアルを複数言語で用意する
- 礼拝スペースや食事制限への配慮を検討する
- 母国語で相談できる窓口や担当者を決めておく
- 登録支援機関に外国人材支援を委託する(費用相場は1人あたり月額2万〜4万円程度)
体制整備にはコストがかかりますが、多言語の就業規則・社内マニュアルや相談体制の整備では、人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)の対象となる場合があります。管轄のハローワークや社会保険労務士に相談しながら、無理のない範囲で整えていきましょう。
国籍多様化を進めた企業の事例

理論だけでなく、実際に国籍の分散を進めた企業がどのような変化を感じているのか気になる方もいるでしょう。ここでは、特定国依存から複数国採用へ切り替えた中小企業の事例として、あくまで一般的なイメージの一例を通じて、多様化戦略の効果をイメージしていただきます。
特定国依存から複数国採用に切り替えた中小企業様の例
ある飲食店を運営する中小企業では、これまで1カ国籍の技能実習生だけに頼って現場を回していました。しかし送り出し国側の手続き遅延で入国が数カ月遅れた経験をきっかけに、特定技能人材紹介サービスを活用して採用国を見直すことにしました。具体的には、調理補助としてミャンマー人スタッフを、店舗運営を任せるマネージャー候補としてネパール人スタッフを組み合わせて採用する形に変更しています。国籍を組み合わせることで、どちらか一方の送り出しが滞っても、もう一方の採用ルートで欠員をカバーできる体制になりました。
多様化後に採用が安定したポイント
複数国籍を組み合わせて採用した結果、この企業では人手不足の解消と店舗運営の効率化が進みました。ポイントを整理すると、次のような効果が挙げられます。
- 1カ国の送り出し停止が起きても他国籍でカバーでき、欠員リスクが分散された
- 国籍ごとに得意分野の異なる人材を配置し、店舗運営の役割分担が明確になった
- 特定の国籍だけに依存しないことで、離職が集中するリスクも和らいだ
もちろん効果の出方は業種や職場環境によって差があります。それでも、国籍の多様化がリスク管理と採用の安定化の両方に役立つ一例といえるでしょう。
まとめ

この記事では、外国人採用における国籍の偏りが招くリスクと、その対策について解説しました。特定の1カ国に採用が集中すると、政情不安やビザ規制の変更、送り出し停止によって採用が突然止まってしまう危険があります。こうしたリスクに備えるには、複数国から採用する「採用ポートフォリオ」の考え方を取り入れ、多言語対応や相談窓口といった社内体制も合わせて整えることが欠かせません。自社だけでの対応に不安がある場合は、外国人採用支援サービスの活用も検討してみてください。
外国人採用 国籍 多様化 リスク管理についてよくある質問

外国人採用における国籍の多様化とリスク管理について、よく寄せられる質問にお答えします。
外国人材の国籍がどのくらい偏ると危険ですか?
明確な公的基準は確認できませんが、自社の外国人材が特定の1カ国に著しく集中している場合はリスク管理上の注意点です。特定国への依存度が高いと、当該国の制度変更や国際情勢の影響を受けやすくなる場合があるため、早めに分散を検討しましょう。
何カ国くらいに分散すればよいですか?
企業の規模や職種によって異なりますが、複数国に分散しておくと、特定国で採用が止まった場合の影響を抑えやすくなります。最適な国数は企業ごとに異なるため、まずは2カ国目の候補探しから始めるのがおすすめです。
複数国籍を採用するとコストは増えますか?
送り出し機関や登録支援機関とのやり取りが増えるため、初期段階では手間や費用が増える場合があります。登録支援機関への委託費用はサービス内容や委託先によって異なり、国籍が増えるほど調整の手間が増える傾向がある点は留意しておきましょう。ただし長期的には採用停止による損失を防げる可能性があり、効果の感じ方には個人差があります。
既に1カ国に偏っている場合、いつ分散を始めるべきですか?
分散は早く着手するほど、リスクを抑えやすくなります。次回の採用計画を立てるタイミングで、代替候補となる国籍の情報収集から始めてみてください。
国籍分散以外にリスク管理で意識すべきことは何ですか?
多文化理解研修の実施や就業規則の整備、相談窓口の設置なども大切です。国籍を分散しても、社内のコミュニケーション体制が整っていなければトラブルの芽は残ってしまいます。