特定技能の複数事業所兼務は可能?条件と手続きを解説
グループ会社や複数店舗を展開する企業では、特定技能人材を複数の事業所で兼務させたいと考える採用担当者が少なくありません。しかし特定技能制度には独自のルールがあり、知らずに運用すると違反リスクにつながります。この記事では、特定技能人材の複数事業所での兼務が制度上どこまで認められるのか、条件・手続き・注意点を整理して解説します。
特定技能外国人は複数の事業所で働かせることができるのか?【結論】

結論から言うと、特定技能外国人を複数の事業所で単純に兼務させることは、原則として認められていません。ただし、同一法人内での配置転換など、条件を満たせば例外的に可能なケースもあります。まずは基本ルールと例外の全体像を押さえましょう。
原則として「1つの事業所」での就労が基本
特定技能の在留資格は、指定書に記載された特定技能所属機関と業務区分の範囲内でのみ就労が認められる仕組みです。出入国在留管理庁の資料でも、特定技能外国人はフルタイムで業務に従事することが求められることから、複数の企業が同一の特定技能外国人を雇用することはできませんと説明されています。ここでいうフルタイムとは、原則として、週に30時間以上かつ5日以上、かつ、年に217日以上の勤務を指します。つまり、異なる法人の複数事業所を単純に掛け持ちさせる働き方は、そもそも制度上想定されていないのです。
例外的に複数事業所での就労が認められるケース
一方で、同一法人内であれば複数事業所での就労が認められる場合があります。地方出入国在留管理局での審査を受けた上で、同一機関内(同一法人内)の複数事業所で雇用することは可能ですとされており、グループ内の店舗や工場間の配置転換は選択肢になり得ます。また農業・漁業分野では、季節ごとの繁閑に対応するため派遣形態を使って複数の事業所で働いてもらう方法も認められています。次章では、こうした例外が成立するための3つの条件を詳しく見ていきましょう。
複数事業所での就労が認められる3つの条件

同一法人内の複数事業所での勤務を実現するには、次の3つの条件をクリアする必要があります。①所属機関が同一法人内の複数事業所であること、②業務内容が同一の特定産業分野内で、かつ必要に応じて同一の業務区分または技能水準の共通性が確認される範囲内であること、③出入国在留管理庁への届出を行うことです。なお、特定技能外国人が複数の企業で就労することはできない点にご注意ください。それぞれのポイントを順番に見ていきましょう。
①同一法人・グループ企業内であること
複数事業所で働かせる場合でも、雇用契約を結ぶ特定技能所属機関そのものは同一法人でなければなりません。グループ会社であっても法人格が別であれば、出向や転籍は実質的に転職と同じ扱いになります。転職の場合、転職する場合は、転職先の受入れ企業の協力を得て、在留資格変更許可申請を改めて行う必要がありますとされており、審査には一定の時間がかかります。グループ会社間の異動を検討する際は、まず登記上同一法人かどうかを確認することが出発点になります。
②業務内容が在留資格の範囲内であること
移動先の事業所で任せる業務は、当初取得した特定技能の分野・業務区分と一致している必要があります。区分が変わる場合は、特定技能の業務区分を変更した場合、必要な技能水準を満たしていると証明する資料が必要ですとされており、無条件に異動できるわけではありません。たとえば農業分野で耕種農業から畜産農業へ担当を切り替える場合も、追加の証明書類が求められます。業務区分が一致しない異動をさせると、資格外活動とみなされるリスクがあるため、事前確認が欠かせません。
③出入国在留管理庁への届出が必要
就業場所(事業所)を変更・追加する場合は、随時届出の対象になります。届出の期限について、随時届出は「事由が生じた日から14日以内」に提出しなければならず、対応が遅れると重いペナルティを科されるリスクがありますと解説されています。出入国在留管理庁のQ&Aでも、特定技能所属機関の中で、勤務していた事業所から他の事業所に転勤する場合、当初の雇用条件書に記載していない他の事業所においても掛け持ちで勤務させるケースは届出の対象になると整理されています。届出を怠った場合のリスクは、後述のNG事例の章で詳しく解説します。
複数事業所で就労させるための手続きの流れ

3つの条件を満たしたうえで、実際に複数事業所での就労を始めるまでには、①業務区分と契約内容の確認、②必要書類の準備、③随時届出の提出、という流れで手続きが進みます。ここでは必要書類と、事業所変更のたびに求められる対応を詳しく見ていきましょう。
就労開始前に必要な書類と届出
複数事業所での就労を開始する前には、支援計画書の内容変更や特定技能雇用契約変更届出書の準備が必要です。分野によって追加書類も異なり、介護、ビルクリーニング、リネンサプライ、工業製品製造業、自動車運送業、外食業分野では、新しい事業所の「営業許可証の写し」や「協議会構成員を証明する書類」などの追加添付が必要です。書類に不備があると審査が長引きやすいため、余裕を持った準備を心掛けましょう。
事業所が変わるたびに手続きが必要なケース
季節労働や配置転換のたびに勤務先の事業所を変える場合、その都度「随時届出」が必要になる点に注意が必要です。随時届出の提出期限は、事由が発生してから14日以内が基本ですとされており、遅れる場合は理由書の添付が求められます。頻繁に事業所を変更する運用は、その分だけ書類作成の手間や管理コストがかさみやすくなる点も理解しておきましょう。複数拠点を持つ企業は、異動のスケジュールをあらかじめ整理し、届出漏れが起きない体制を整えておくと安心です。
農業・食品製造・建設など季節変動が大きい業種での活用例

季節変動が大きい業種では、以下のように対応方法が分かれます。
| 分野 | 派遣形態 | 主な対応方法 |
|---|---|---|
| 農業・漁業 | 可能 | 派遣元との契約に基づき複数の事業所へ派遣 |
| 食品製造業 | 不可 | 同一法人内の事業所異動、または転籍 |
| 建設業 | 不可 | 同一法人内の事業所異動、または転籍 |
この表を踏まえ、具体的な運用イメージを次項で解説します。
繁忙期に他の事業所へ一時的に移動させる場合
農業・漁業分野は特定技能の中でも唯一、派遣形態での受け入れが認められている分野です。農業分野と漁業分野の2つの分野に関しては、特定技能を派遣として雇用することが例外として認められています。この仕組みを使うと、農業特有の繁閑に合わせて外国人を受入れられるのが派遣形態のいいところで、複数の農業者のもとで業務に従事することが可能です。ただし、派遣元・派遣先の双方が農業特定技能協議会に加入し、労働関係法令を遵守する必要がある点は押さえておきましょう。
グループ会社間で人員を融通したい場合
食品製造業や建設業など、農業・漁業以外の分野ではこうした派遣形態を使うことができません。そのため、グループ会社間で人員を融通したい場合は、同一機関内(同一法人内)の複数事業所で雇用する形にとどめるか、法人をまたぐ場合は転籍として在留資格変更許可申請を行う方法を選ぶことになります。転籍が難しく新たに人材を採用する場合、人材紹介会社を利用すると手数料の相場は30万〜50万円程度になる点も想定しておくとよいでしょう。繁忙期だけ他社へ応援に出す、といった簡易な融通は制度上難しいため、事前に人事担当者と行政書士で運用方法をすり合わせておくと安心です。
やってはいけないNG事例と違反リスク

ここまで解説してきた適正な手続きを踏まえたうえで、実際によくある違反パターンと、それぞれのリスクを確認しておきましょう。所属機関による定期届出の不履行や、派遣・請負への安易な転用は、よく問題になりやすい違反パターンの一つです。
無届けで複数事業所を掛け持ちさせた場合のペナルティ
事業所の変更や複数事業所での就労を無届けのまま行うと、重いペナルティの対象になります。届出を怠ると、特定技能外国人の受入れが一定期間停止されるほか、罰金のペナルティが科せられる恐れもあります。また、届出の不履行は30万円以下の罰金の対象であり、将来の受入れにも悪影響を及ぼすとされているため、事業所変更の際は必ず期限内の届出を徹底しましょう。
請負・派遣形式での転用が認められない理由
農業・漁業以外の分野で特定技能外国人を請負や派遣に転用することは、原則として認められていません。特定技能1号では、原則として正社員・フルタイムでの直接雇用ですとされており、派遣や請負を装った実質的な労働者供給は制度趣旨に反します。偽装請負とみなされた場合、受入れ企業だけでなく外国人本人にも不利益が及ぶおそれがあるため、繁忙期対応は必ず認められた手法の範囲内で検討することが大切です。
まとめ

この記事では、特定技能人材の複数事業所での兼務について解説しました。特定技能外国人はフルタイム(原則として労働日数が週5日以上かつ年間217日以上、週労働時間30時間以上)での就労が求められ、複数の企業での兼業・掛け持ちは認められていません。一方で、同一法人内での配置換えや事業所間の異動については、契約機関(受入企業)を変更しない限り認められる運用が見られますが、事業分野や契約内容によって必要な届出・手続が異なるため、必ず最新の法令・ガイドラインを確認するようにしましょう。特定技能外国人は契約機関ごとに在留資格が紐づけられており、他法人に移る場合には原則として新たな契約機関との在留資格変更許可申請などの手続きが必要になる点にも注意しましょう。実務では、特定技能外国人を受け入れる企業には支援計画の策定義務があり、変更が生じた場合には所定の届出が必要となるため、判断に迷う場合は行政書士や登録支援機関、外国人採用支援サービスへの相談も検討してみてください。
特定技能 複数事業所 兼務についてよくある質問

同じ会社の別店舗になら、届出だけで異動できますか?
同一法人内の店舗異動であれば、雇用契約変更届出書などの随時届出を行うことで異動できます。ただし勤務地変更に伴い雇用条件書の記載内容が変わるため、届出は必須です。
農業以外の分野で派遣は使えますか?
派遣形態が認められているのは農業分野と漁業分野の2分野のみです。それ以外の分野では直接雇用が原則となり、派遣や請負への転用は認められません。
無断で事業所を掛け持ちさせたらどうなりますか?
届出義務違反として、受入れの一定期間停止や30万円以下の罰金の対象になる可能性があります。将来の特定技能人材の受入れにも悪影響が及ぶため注意が必要です。
グループ会社への出向は転職として扱われますか?
出向先が別法人の場合は、実質的に転職と同じ扱いとなり、出向先企業の協力のもとで在留資格変更許可申請を行う必要があります。
複数事業所を受け入れる場合の届出は事業所ごとに必要ですか?
定期届出は本社が一括して取りまとめて提出しますが、事業所ごとの明細(別紙)の作成は必要です。随時届出も同様に本社所在地を管轄する地方出入国在留管理局に提出します。